本作、構成・演出の松本修さんによる演出ノートです!
前編と後編の2回に分けてお届けします。
今回は以下の3つについて書き下ろしていただきました。
【カフカの小説の舞台化を続けている理由】
【新作『審判』について】
【再々演となる『失踪者』(『アメリカ』改題について】

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【カフカの小説の舞台化を続けている理由】
あらかじめ舞台で上演することを想定して書かれた<戯曲>を上演する際の様々な制約から解き放たれる自由さがある。カフカの小説は空間についての記述や登場人物の描写がすぐれて身体感覚的であり、ナチュラルな描写から踏み出した誇張のある表現も多い。映像的であると同時に、演劇的手法ともいえるその描写は、演出家や俳優のイメージを膨らませるための素材とヒントに満ちている。「世界の認識の仕方」「自己の認識の仕方」「世界と個人の関係」等の主題に加え、現実の世界(現代社会)に生きている実感をベースにしたカフカの小説の世界は、20世紀以降の産業社会に生きている我々には非常に親しみやすい。その特異な描写や記述によって「難解」「不条理」等のレッテルを貼られがちだが、その「笑い」と「皮肉」に溢れたカフカの作品の数々は、私にとってはチェーホフ、ベケットの系譜に繋がる現代演劇のテキストとして存在している。
*7月の創作ワークショップより
【新作『審判』について】
新作『審判』は、これまでに上演してきた『アメリカ』(失踪者)、『城』とは違った傾向の舞台になるのではないか。原作の持つ「現代性」「現実感」が、私にそのような予感を抱かせる。『審判』は、現代の都市に生活するエリート銀行員、ヨーゼフ・Kが一年間に渡り日常を送りながら、刑事裁判の被告人となる物語である。物語の構成要素ばかりでなく、描かれている登場人物や様々な道具立ても、現代社会そのままである。「ある日逮捕され、裁判に巻き込まれる」という出来事が、たとえそれが何かの暗喩だとしても、現代に生きる我々にとっては非常にリアリティがある。今回の私の演出では、舞台を第一次世界大戦前後のプラハをイメージした。上演台本の構成(舞台上での物語りの進め方)や演出のテンポ、そして舞台美術、衣裳、音楽などの要素も、これまでに演出した『アメリカ』や『城』とはまったく異なるだろう。
*「アメリカ」初演(01) 撮影宮内勝
【再々演となる『失踪者』(『アメリカ』改題について】
タイトルを『失踪者』と変え、俳優陣は新作『審判』と同一の20人での再々演である。『アメリカ』は初演時に25人、再演時に20人で上演した。構成上の大幅な改変はないが、出演者の約半数が変わるため、配役の変更がかなりあり、初演・再演とは違ったテイストの舞台になるだろう。主人公のカール・ロスマンを複数の俳優が演ずるという手法は踏襲し、群集の中のカールにスポットが当たり、また群集の中に埋没していくという構造もそのままである。『審判』との交互上演ということもあり、演出効果上、『審判』との差異を明確に出したい。群衆の処理により空間を変化させていくという手法で「移動」を表現し、配役の交代により「役の記号化=普遍化」を図るというのが演出上のテーマである。

松本修
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演出:松本修
MODE主宰/ 演出家。1955年、札幌市生まれ。俳優として10年間、文学座に在籍後、1989年に演劇集団MODEを設立。チェーホフ、ベケット、ワイルダーなどの海外の戯曲を、現代日本の劇として再構成・演出して高い評価を得る。また、柳美里や坂手洋二、平田オリザ、松田正隆、宮沢章夫など現代日本の劇作家との共同作業も積極的に行ってきた。1996年~1998年、北海道演劇財団常任演出家。1997年より2001年までの5年間、世田谷パブリックシアターのアソシエイトディレクターをつとめ、同劇場で2001年に1年間にわたるオーディションとワークショップを費やして創作された『アメリカ』(原作カフカ)は好評を博し、2003年の再演時には数々の演劇賞を受賞した。また、2002年より「現代日本戯曲再発見シリーズ」を開始し、注目を浴びている。2005年に新国立劇場で上演された『城』(原作カフカ)は、読売演劇大賞作品賞、優秀演出家賞を受賞した。近畿大学文芸学部芸術学科准教授。
【代表作】 『逃げ去る恋』、『きみのともだち』、『わたしが子どもだったころ』(読売演劇大賞優秀作品賞、同優秀演出家賞)、『プラトーノフ』(湯浅芳子賞)、『ガリレオの生涯』、『アメリカ』(読売演劇大賞優秀作品賞、同優秀演出家賞、毎日芸術賞・千田是也賞)、『城』、『変身』など。
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後編も近日中にアップします!