第3回 教えて、すごい人:舞台美術編
どうも、カフカ・レポーター3号(見習い)です。
劇場で働いていていると、観客の時には見えなかったものが、見えてくるようになるものです。

僕が研修生になる前、すなわち一演劇ファンだったとき、公演の創作者として注目するのは、
①演出家 ②劇作家 ③出演者 の三者でした。
そして、この三者をもとに、見る作品を決めていたことが多かったように思います。
が、しかし、舞台を作り上げるためには、当然のことながら演出家、劇作家、役者以外にも、もっとたくさんの人々が関わっています。現場に居合わせるとそのことがよく見えるようになってきました。
作曲家、振付家、衣裳さん、小道具さん、大道具さん、(ヘア)メイクさん、照明さん、音響さん、舞台監督などなど。構成・演出の松本修さんがイメージした劇世界を実現するために、それぞれの職分を全うしています。
今回、観察していて気になったのは、この人・・・
舞台美術を担当された伊藤雅子さんです。劇場での佇まいがかっこいい。
伊藤さんは『アメリカ』(初演)から舞台美術を担当されている方で、シアタートラムの構造を熟知されている方です。シアタートラムの奈落と空間の高さを生かした『アメリカ』(初演)と劇場空間を斜めに大胆に使った『アメリカ』(再演)を見た時に「かっこいいなあ」と思っていました。今回も2作品交互上演という制約がある中で(注①)、見事な舞台美術を作っていただきました。

(舞台上にかかるアーチが特徴的な舞台)
伊藤さんに「どんな考えで舞台美術を作っているか聞いてみたい!」と願う僕の気持を察してか、
カフカ・レポーター1号さんから 「ブログ記事用に伊藤さんに話を聞いてみたら」 と天の声が!
ということで、伊藤さんがお弁当を食べ終わったときを見計らって早速インタビューさせていただきました。
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カフカ・レポーター3号(以下 3号): はじめまして、研修生のカフカ・レポーター3号です。お話を聞かせてください!
伊藤雅子さん(以下伊藤さん): いいですよ。
3号: 『アメリカ』(初演)も伊藤さんの舞台美術ということですが、演出の松本修さんと仕事をするようになったのはいつからなのでしょうか?
伊藤さん: 『アメリカ』の初演が最初なんですよ。しかも、これが私の舞台美術家としてプロデビューした作品でもあるんです。それ以来、『城』以外の松本さんの作品で舞台美術を担当させていただいています。
3号: そうだったんですね。そうすると『アメリカ』は伊藤さんにとって縁の深い作品なんですね。
伊藤さん 『アメリカ』の美術はコンペ形式で、一次審査を通過した時はいまとは全く違うデザインだったんですよ。抽象的な空間の中に船の骨組みのセットを据えたものでした。そのとき、松本さんから「他の公演で似たようなセットがあったから変えられないか」と相談され、いくつかの案を経て初演の形になりました。

(採用されなかった第2案。舞台の四方を観客席が囲んでいて、観客自身もアメリカの群集の中に紛れるというコンセプトだった)
3号: 今回の『失踪者』(「アメリカ」改定)は初演、再演ともまた違った舞台美術になっていますよね。新作の『審判』と交互に上演することになっていますが、この2作品の舞台美術をデザインする上で意識したことやコンセプトなどあれば教えてください。
伊藤さん: 『失踪者』はコンセプトの上では『アメリカ』と同様で、「アメリカ」という空想というか幻のような世界に主人公のカール・ロスマンが迷い込むということを意識して、デザインしています。カフカは実際にはアメリカに行ったことはなくて、アメリカのことを空想してこの小説を書いたそうなんです。だから、どちらかというと『失踪者』は抽象的な空間作りを意識しています。
『審判』では逆に、正常に見える現実世界の中で奇妙なことが起こり、それに主人公のヨーゼフ・Kが巻き込まれてしまうということを意識して、デザインしています。なので、セットは抽象的というよりも具象的な建造物を意識して作っているんです。6月にチェコのプラハを訪れる機会がありました。(注②) その際、松本さんからもらっていた今回のイメージ写真と供に18時以降の誰もいないジューイッシュタウンを一人で歩きながら考えたんですよ。不思議なくらい人がいなかったの。怖かったけど、まさにカフカの不思議な空気が流れていましたよ。その感覚がそのまま今回のデザインに繋がっています。
3号: 今回は両作品とも舞台に大きなアーチがかかっていますね。これは『アメリカ』初演、再演のときにはなかったと思いますが、今回このアーチを設置した狙いはなんでしょうか?
伊藤さん: 舞台の上にかかっているアーチは、町並みを表現すると同時に、作品を見る上でのフィルタの役割を果たすような狙いもあります。このアーチをフィルタとしてその向こう側に展開されるカフカの世界を覗き込むように観てもらえるといいかなと思っています。
3号: なるほど。そういえば、『失踪者』に出てくるエレベーターが初演、再演、そして今回の上演と回を経るごとに、少しずつゴージャスになっているという噂を聞きましたよ。
伊藤さん: 大理石の面積が少しずつ増えていますね。なんせ高級ホテルのエレベーターという設定だから安っぽくするわけにはいかなくて。できれば初演から今回のようにしたかったんですが、いろいろな事情で・・・・・・。少しずつゴージャスにしてもらった感じですね。もし、次回があるなら、これが描き割りになっていますよ。きっと。(笑)

(エレベーターの写真:大理石の面積が増え、初演、再演よりもゴージャス感が増した。)
3号: ふむふむ。様々な制約の中でものをつくるという苦労もあるのですね。
今日お伺いした伊藤さんの舞台におけるコンセプトを意識しながら鑑賞してみたいと思います。より深く、普段とは違った角度から作品を楽しめそうな気がします。みなさんにも、是非2本観て頂き、違いを探して頂きたいですね。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。
(注①) 今回の『審判』『失踪者』の公演はシアタートラム/世田谷パブリックシアターでは初の2作品交互上演。2作品の違いが浮き立つように伊藤さんは考慮して舞台美術をデザインしている。ちなみに、『審判』と『失踪者』では客席と舞台の位置関係が真逆になっている。
(注②) 伊藤さんは6月にプラハで開催された舞台美術のフェスティバル「プラハ・カドリエンナーレ」に日本での選考を経て、「ロンサム・ウエスト」(演劇集団 円公演)を出品した。
そのときにプラハの町を散策した経験が今回の舞台美術のイメージ作りに生かされている。
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お仕事で忙しいにも関わらず、伊藤さんは丁寧に舞台美術について説明してくださいました。
伊藤さんどうもありがとうございました!
みなさんも舞台美術に注目して今回の公演を見てみてくださいね。
舞台空間が役者たちに負けず劣らず、奇妙なカフカの世界を語りかけてきてくれるはずです。