『ピランデッロのヘンリー四世』
鑑賞日:2月13日(金) 19:00~
男性
冒頭、雪の中の「カノッサの屈辱」のシーンは印象的だった。この舞台では、二つの時間が交錯する。主人公ヘンリー(串田和美)の生きている千年も時を隔てた過去と、彼がかつて愛したマティルダ(秋山菜津子)の生きている現在だ。
現在から見れば、過去に生きるヘンリーは狂人だろうが、彼自身は真剣に過去を生きている。だから、人がもしそれを狂気と呼ぶなら、他人の人生を真剣に演じる役者などは、狂人の最たる者だろうし、その狂人たちが演じる芝居をみて感動する我々観客だってどこかおかしい・・・と、そんな皮肉がこの芝居には込められているようだが、白井晃の演出は、そんな哲学めいた理屈を感じさせないスピード感のあるものだった。

『ピランデッロのヘンリー四世』 撮影:宮内勝
いずれの役者も演技達者で、込み入った筋にも関わらず、登場人物の過去の間柄がよく分かるように出来ていたし、台詞もこなれていて聞き取りやすかった。ピランデッロの芝居というと、見る人各々に解釈が成り立つような「御意にまかす」が有名だが、今回の「ヘンリー四世」も観客各々に異なった印象を与えたのではないだろうか。
少なくとも僕はこの串田和美演ずる「ヘンリー四世」に、他人事ではない悲劇を感じた。また、ラスト近くベルクレディ(白井晃)が叫ぶ「彼は狂っていない!」という台詞は、ある種の啓示として今も不思議に耳に残っている。幕切れ、ヘンリーが言う「道はひとつしかない・・・永遠に」という台詞も大変印象深く記憶に残った。
リポーターということで、今回は独りで観劇したが、こういう芝居こそ、気のおけない友達や恋人同士で見に行き、終演後、侃々諤々、感想なり解釈なりを話し合うのにうってつけの芝居だろう。また、蛇足ながら、シアタートラムは客席と舞台が近く、役者の息遣いまで感じられるような劇場だと感じた。
最後に、こうした見応えのある舞台を創った出演者の皆様、演出家、翻訳者、そして多くの裏方の皆様に再度拍手を送りたい。
